以下の文章は私が教師として在籍していたときに、生徒にあてたメッセージです。補習校の生徒たちだけではなく、今アメリカで生きている人たちにも通じるものだと思いますので掲載いたします。

2000年9月30日
シカゴ双葉会補習校高等部のみんなへ

 もうすでにご存知の方もあるかもしれませんが、私は、このたび4冊目の本を出版しました。
 タイトルは「日本の兵隊を撃つことはできないー日系人強制収容の裏面史」といいます。今こうやって、あえてみんなにお知らせしているのは、ただ単に本を「売りたい」からでは決してありません。確かにみんなに読んでもらいたいとは思っています。なぜか。題材は、戦前・戦中の日系アメリカ人の歴史を扱っていますが、内容は、日本語を話す人間にとって、アメリカで生きるとはどういうことか、をテーマにしているからです。


 私が補習校に来るようになって、もうすぐ一年が過ぎようとしていますが、毎学期、始業式や終業式で頭や目が黒い人間ばかり集まっている光景に、私は「平和でよかったな」と感じています。運動会の時もそうでした。私のアメリカ生活も15年目ですが、私はアメリカに来てはじめて、日章旗が堂々とアメリカの空にはためき、君が代がろうろうと響き渡るのを経験しました。「平和でよかったな」と改めて思いました。学校ではいつも、今この瞬間、日米戦争が起きたなら、私たち教師は全員即収容所に送られ、学校はつぶされるのだろうなあ、と考えています。それが実際に起きたことだからです。


 私は、アメリカで生活しているみんなが、黒髪の人間ばかりが集まり、君が代を聞き、日章旗を見上げることを当たり前とは思ってほしくないと考えています。なぜならそれは、現代という時代にイリノイに住んでいる私たちが非常に恵まれているにすぎないからです。私が以前住んでいたダコタでは、今だに「リメンバーパールハーバー」という言葉が日常をとびかっていました。アメリカといえどもさまざまです。そして私たちの今の恵まれた状況は、戦争という苦難の時代を乗り越えた人々がいたからこそ、であることを忘れてはならないと思います。かつて、日本語を話すアメリカ人たちがどんな思いで生きたのか、現代アメリカを生きているみんなに知ってもらいたいと思います。
 また戦前のアメリカでも、多くの子供たちが日本語学校に通いました。私が本の中で扱ったテーマの一つです。毎週土曜日に補習校に通ってくるみんなが共感できる部分もあるかもしれません。


 本の紹介は、私が4月の新学期初めにみんなに話した言葉、「誠実な気持ちで、一人一人のみんなの心に触れてみたい」という私の気持ちでもあります。日本語(文化)と英語(文化)のはざまにあるみんなのことを、私がどんな風に見、考えているか、私の心の片鱗でもわかってもらえるかもしれません。私がみんなに本を紹介するにあたっての小さな期待です。


 みんなも小論文のクラスで、ほんの少し感じてもらえたかもしれません。文を書くことは自己表現の方法の一つです。私は、お金のために書くのではなく、多くの人に知って、聞いてもらいたいメッセージがあるから書きます。私のメッセージを探したいと、みんなの中で本を手にとってくださる人が一人でもいれば、そんなにうれしいことはありません。


デイ多佳子